社会人からパイロット

社会人からパイロットを目指す方へ、そのヒントと応援をするブログです。航空ファンの方にも楽しんでもらえるよう、業界の出来事に雑感を交えながら紹介していきます。

CRMとTEM

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小型機の訓練時はなかなか馴染みがないかもしれないですが、2マンの飛行機を運航する際は、必ずこの『CRM』とか『TEM』とかという話がよく出てきます。皆さんも何度か聞いたことがあると思いますが、航空機事故の減少を願う人々が期待して作り上げたのが CRM=Crew Resouuce Managementで、いわゆる『Technical Skill』だけで安全を保つことは難しく、Technical以外の考え方やSkillを使って安全を作り出そうというものです

CRMも21世紀に入り、第6世代となって、テキサス大学の "Human Factors Reseach Project" によりCRMの一般モデルであるTEM=Threat & Error Management Model というものが登場しました。このモデルはある専門の訓練を受けたオブザーバーが運航乗務員の行動や環境要因に関するデータを収集・分析するLOSA=Line Operations Safty Auditというプログラムを通して開発されたものです。

<スイスチーズモデル>

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事故が起きる過程を説明するのに"Error Chain"が有名ですが、最近ではイギリスの心理学者が唱えたこの『スイスチーズモデル』がよく利用されます。潜在的な危険を防護する壁をスイスチーズに例えています。理想的な状態では壁に穴は開いていないのですが、エラーや規則違反によって穴が生じます。でも防護壁は何枚もありますし、穴もランダムに空いていますので、一列に穴が並んでしまうことは非常に稀ですが、その稀が起こってしまうと事故になることを表しています。"Threat"とは直訳すると『脅威』などを意味しますが、航空運航においては運航にエラーを誘発する様々な要因を意味します。

 Treatの具体例としては、悪天候・馴染みのない空港・似通ったコールサイン・機材故障・自動装置の無理解・地上係員・タイムプレッシャー・イレギュラー・乗客に関する事柄・ストレス…などパイロットではどうにもならないものを指し、実に多くのものがあります。Errorーは逆にパイロットによるもの、Procedureからの逸脱・手順のエラー・ミスコミュニケーション・知識技術不足・意思決定などがあります。

このスレットとエラーが重なるとUAS(Undesired Aircraft State)、日本語に訳すと『望ましくない飛行機の状態』に陥り、そのマネジメントに失敗すると事故になってしまう訳です。

つまりスレットを認識して、エラーを引き起こさない、引き起こしても発見し正しく対処することでUASの状態を回避することができます。AIMの913にも記載がありますが、基礎的な考え方は早く勉強しておくべきです。この分野はどうしても小型機の世界では遅れをとっていますので、とても分かりやすく書いてある本を紹介しておきます。このTEMの考え方は航空機運航のみならず、日常生活にも多分に役立つと思うので、是非この本は皆さんに読んで頂きたいです。

 
航空安全とパイロットの危機管理 (交通ブックス311)

飛行機なんて本来は乗らなければ事故に遭わないわけですから、折角乗って頂いたお客様に何かあっては絶対にならないことなんです。パイロットを目指す皆さんは、技術とか学力が採用のポイントになっていると考えがちだと思いますが、会社が欲しいのは『絶対に事故をしない人』なんです。こういった大先輩が書いた本を読んで、安全を語れる人になって欲しいと思います。(このあたりの知識は小型機の教官にはあまりないと思います。だから不要という考えではなく、このブログを読んでくれている皆さんにはその上をいって欲しいと願ってます)