社会人からパイロット

社会人からパイロットを目指す方へ、そのヒントと応援をするブログです。航空ファンの方にも楽しんでもらえるよう、業界の出来事に雑感を交えながら紹介していきます。

採用試験(適性検査)について

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晴れてライセンサーとなれば一番の関門となる採用試験ですね。学科や面接が通らなければ話にならないですけど、難しいのは『適性試験』ではないでしょうか。

各社工夫を凝らして様々な角度から受験生を見ていますが、当然言えることは失敗しなければ(上手ければ)減点のしようがないということです。なので事前にプロファイル等が渡されれば十分にイメトレをして試験に臨んでください。

試験機材が使えるようならば、一度や二度は触っておけるとベストですね。ただですね、これが難しい。慣れすぎも良くないみたいです。その機材に慣れているかどうかは恐らくベテランの教官陣は直ぐに見抜きます。そうするとチェックするポイントが変わるというか、厳しくなる傾向にあります。

絶対やってはいけないことは『このシュミレーター触ったことある?』『1,2回やりました...』ってありそうな光景じゃないですか?すると採用側は『1,2回??なんだその誤魔化したような答え方は…本当はもっとやったのかな??』という具合になり、場合によっては機材を提供しているところに確認したりされる可能性が高くなります。

なので正直に言って下さい。そんなこともあって、『1回』か『2回』練習してあとはイメトレ。聞かれたら正直に答えるが一番なんだと思います。嘘つきとなると一気に印象が悪くなりますからね。

ではどんな点を見ているか。一言でいえば『こいつを自分の右席に座らせられるか』なんでしょうけど、どんな時も落ち着いて丁寧に対処する。コールアウトやインテンションはハッキリ伝える。失敗した場合でも誤魔化そうとせず意欲的に修正する。ワークロードが高くなったときにテンパらない。そして同じミスはしない。

つまり初期訓練の時からどんな訓練をしてきたのかが見られると思って間違いないです。デジタル計器は1度、1ktでも誤魔化せないですから常に修正意欲を見せます。(安定していても1ktずれた状態を絶対維持しないでください)そしてどんな時でもSituational Awarenessは失ってはなりません。

だから機材に慣れて一発でパワーコントロールを決めたりしなくても大丈夫ですし、諸元がずれてもいいんです。修正の方向が間違っていなければ問題にならないそうです。(例えば速度が増えているのを見逃して、ただ高度が上がっているからとピッチだけで下方修正するのは×ということですね)むしろ失敗したときにの対処が良かったりすると逆に評価が上がることもあるそうです。

また試験中に話しかけたりもしてきます。実運航でも同じですね。『Fly First』です。だからといって無視もできないでしょうから、忙しいときは『○○した後に答えます』とでも言っておけばいいんじゃないでしょうか。

あと無用なアピールはいりません。失敗した時に『あれ?いつもはこんなんじゃないのになあ…このシュミレーターおかしいのか?』って首をかしげる人、結構多いそうです。相手は機械なので、壊れていない限り皆同じ条件ですからね。(壊れてたり設定が違っていたりしそうな時は、遠慮なく言いましょうね)

技術的なアドバイスとしては…ジェントルなフライトをしましょう。『どうだ。諸元ぴったりだ!』といっても乗り心地の悪いフライトは嫌がられます。大切な人を乗せているつもりで適性検査も受検すれば、きっと上手く行くと思います!明るく、優しい気持ちで臨んでください!

『更に上位者向けの追記。風まで意識できれば最高です。採用試験で使っているFTDは地上風と上層風を変えることができるそうです』

英語対策としてCASECは絶対一度は受けて、自分の英語力を把握しておくことをすすめます。総合的な英語の能力を図れるということで、各企業注目しているそうです。適性まで行けば最後は総合点勝負ですから、英語の試験も侮れないです!

 

 

CRMとTEM

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小型機の訓練時はなかなか馴染みがないかもしれないですが、2マンの飛行機を運航する際は、必ずこの『CRM』とか『TEM』とかという話がよく出てきます。皆さんも何度か聞いたことがあると思いますが、航空機事故の減少を願う人々が期待して作り上げたのが CRM=Crew Resouuce Managementで、いわゆる『Technical Skill』だけで安全を保つことは難しく、Technical以外の考え方やSkillを使って安全を作り出そうというものです

CRMも21世紀に入り、第6世代となって、テキサス大学の "Human Factors Reseach Project" によりCRMの一般モデルであるTEM=Threat & Error Management Model というものが登場しました。このモデルはある専門の訓練を受けたオブザーバーが運航乗務員の行動や環境要因に関するデータを収集・分析するLOSA=Line Operations Safty Auditというプログラムを通して開発されたものです。

<スイスチーズモデル>

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事故が起きる過程を説明するのに"Error Chain"が有名ですが、最近ではイギリスの心理学者が唱えたこの『スイスチーズモデル』がよく利用されます。潜在的な危険を防護する壁をスイスチーズに例えています。理想的な状態では壁に穴は開いていないのですが、エラーや規則違反によって穴が生じます。でも防護壁は何枚もありますし、穴もランダムに空いていますので、一列に穴が並んでしまうことは非常に稀ですが、その稀が起こってしまうと事故になることを表しています。"Threat"とは直訳すると『脅威』などを意味しますが、航空運航においては運航にエラーを誘発する様々な要因を意味します。

 Treatの具体例としては、悪天候・馴染みのない空港・似通ったコールサイン・機材故障・自動装置の無理解・地上係員・タイムプレッシャー・イレギュラー・乗客に関する事柄・ストレス…などパイロットではどうにもならないものを指し、実に多くのものがあります。Errorーは逆にパイロットによるもの、Procedureからの逸脱・手順のエラー・ミスコミュニケーション・知識技術不足・意思決定などがあります。

このスレットとエラーが重なるとUAS(Undesired Aircraft State)、日本語に訳すと『望ましくない飛行機の状態』に陥り、そのマネジメントに失敗すると事故になってしまう訳です。

つまりスレットを認識して、エラーを引き起こさない、引き起こしても発見し正しく対処することでUASの状態を回避することができます。AIMの913にも記載がありますが、基礎的な考え方は早く勉強しておくべきです。この分野はどうしても小型機の世界では遅れをとっていますので、とても分かりやすく書いてある本を紹介しておきます。このTEMの考え方は航空機運航のみならず、日常生活にも多分に役立つと思うので、是非この本は皆さんに読んで頂きたいです。

 
航空安全とパイロットの危機管理 (交通ブックス311)

飛行機なんて本来は乗らなければ事故に遭わないわけですから、折角乗って頂いたお客様に何かあっては絶対にならないことなんです。パイロットを目指す皆さんは、技術とか学力が採用のポイントになっていると考えがちだと思いますが、会社が欲しいのは『絶対に事故をしない人』なんです。こういった大先輩が書いた本を読んで、安全を語れる人になって欲しいと思います。(このあたりの知識は小型機の教官にはあまりないと思います。だから不要という考えではなく、このブログを読んでくれている皆さんにはその上をいって欲しいと願ってます)

 

  

ATC(2)

毎日飛んでいると時々???と思うATCが来ることがあります。『そんな時は迷わずコンファームをしましょう』と前のブログでも書きましたが、そのコンファームがなかなかできない人が意外と多いんです。一部聞き取れなくても前後の脈絡から「きっとこういう事だろうな」と推測して応えてしまう人。普通の英会話だったり、レッスンだったらそれも有りなのでしょうが、空の世界ではご法度です。訓練中で「ATCが分からないと教官に思われたらマズイな」とか「プロシージャ―が忙しいから」という理由で曖昧なまま受け応えることのないように訓練中から練習することが大事です。

でもそんなATCもなかなか教材が無いですよね。海外で訓練すると結構いい加減だったり、日本でも変なATCを時々耳にします。エアラインではいわゆる自己流のATCは嫌がられるので、はじめから正しいATC用語を使うように心掛けるといいと思います。リードバックも同様です。例えば

JA001, Recleared Direct ANGEL, Descend to Reach 10,000 by BINKS, Area QNH 2986

これは成田に向かうときのATCですが、こんな感じで3つくらいの内容を盛り込んで言ってきますので、みんな工夫して正確なリードバックをするように努めてます。 

 

       

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上記左がATCの教科書です。これとAIMを普段からしっかり声に出して読んでおけばATCはバッチリです。あとは実機訓練中のATCは必ず録音するようにしましょう。とても勉強になります。ボイスレコーダーも色々ありますが、上記のような無音部分がカットされるような機能がついているものが絶対にお勧めです。それをPCに落とし込んで、ライブラリを作って勉強すれば完璧ですね。

これはラインに入ってからやるのでは無く、早くから少しずつラインオペレーションのATCに慣れておくことで、路線訓練時にとても余裕が生まれるハズです。クリアランスデリバリがある空港、成田のようにランプコントロールがあったり、グラントすらなくタワーにコンタクトするところなど、自分の行ったことのある空港だけでなく、様々なところを聞いて経験するのです。すると聞き取れないところがきっとあるはず。それを録音からチャートと一緒に確認するようにやって下さい。

CPDLC対応の機体もありますが、クリアランスからディバーチャー、ACCに移管されるところくらいまで100パーセント追えるようにしていきます。ただBGMのように流しているだけでは、聞き取りにくいところはそのまま受け流されてしまうだけですよね。


これから訓練を始めようと思っている人も既に進行中の人も、費用を掛けずにやっておるべき勉強はこんな感じで沢山あります。今の季節はCB回避が頻繁にありますが、CBはどのくらい離れれば大丈夫ですか?高度はどうですか?その時はATCでなんて言おう…なんて考えながら空を見上げてみるだけでも勉強になります。そして『ネイティブキャンプ』は知っていますか?月額5980円で24時間話し放題のオンライン英会話がありました。興味ある人は試す価値大です!

パイロット不足 その3

 『パイロット不足という割に募集が少ないのは何故か?』という質問を頂いたので、ブログを通じ、回答したいと思います。

おそらく殆どの会社は、新しいパイロットの獲得に必死になっているのは間違いありません。本音はどんどん採用してどんどんFO昇格させて、FOはCAUG(キャプテンアップグレード)コースに投入して…としたいところですが、訓練枠に制限があるというのが一番大きな理由のようです。

型式限定取得訓練にはSIMが必要になりますが、とにかくこのSIM自体に空きがないのです。SIMは型式限定訓練以外にも、現在いる乗員の定期訓練にも使われています。加えて病気で休んでいた方の復帰訓練や、各種審査、検証、採用活動等にも使用されるので、中長期的な計画な中で使用されているんですね。これはSIMを持っている会社、外部委託している会社のどちらにも言えるようで、では単純に『SIMを増やせば良いのでは?』と思っちゃいますが、そこは高額な資金投入と設置場所等の問題から、それも簡単にはできないとうことなんですね。

そして教官も足りないのです。一般的に現役を引退した比較的高齢の方々に養成訓練をして頂くケースが多いのですが、どこも乗員不足で今までは教官をしていたような人にも少しでも乗務してもらいたいということから、身体検査証明が取れる方には飛んでいただく。そうすると当然教官の数は減る、ということも起こっています。

パイロット不足は困るが余剰も困る、でも現在の便は確保しなくてはいけない…そこに担当者は頭を抱えているとのことでした。

でもこの問題も僕が見ている感じでは各社対策に動き始めているようです。今は加齢乗務員に支えられていますが、それにも当然限界があります。発着枠が広がっても訓練枠は広がらない…これって何かおかしい気が。。。

 

パイロット不足 その2

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2020年に向けた羽田発着枠拡大に向け、先日は首都圏の空域に大幅な変更がありました。国内各社では需要増加を見込みその準備に追われているようですが、どこも人材不足には頭を抱えているようです。

パイロットの場合、その性質上養成までに長い年月がかかります。なので事業用多発計器まで取得したライセンサーの募集をしていますが、会社目線で見ると『質』という点でその数も減ってきていると考えているようです。

前のブログにも書きましたが、会社はとにかく一定以上の『資質』を持ったパイロットを探しています。なので民間スクールや私大からは『推薦制度』と称して少しでも優秀な人材を先に囲ってしまおうとしているのですね。

35歳未満で一定以上の技量を備えていれば就職は比較的容易な時代にあると言えます。そこから溢れてしまった人でもライセンス以外に、技量の向上や英語力など、見える形で努力をしていけば必ずチャンスはあります。例えば英語がペラペラなら海外での就職も視野に入りますよね。海外は難しい…なんて言っている人は諦める理由を探している人だと僕は思っています。(現に活躍している人は大勢います)はじめから海外を目指すというのもアリです。そんな人はFAAを取得した後、JCAB訓練を受ける必要はなくなりますね。


しばらく前に大学の後輩がパイロットを目指していることで、その相談に乗ってきました。その彼女はJCABの事業用は所持しているのですが、計器の費用が捻出に時間が掛かりそうなので、一旦使用事業に就職しようか悩んでいました。就職は本人が決めることなので、僕がとやかく言う事ではないのですが、ハッキリ言えることは小型機での飛行経験は国内の会社では全く評価されないという事です。

大手の航空会社ではMPLでパイロットを養成しているくらい『一人で飛ぶ』という事を想定していないんです。そしてパターンを綺麗に回れるとか、マニューバーが上手いとかの技量はT類の飛行機では求められません。どんな時でも常に落ち着いて対処ができるかとか、MCPやCDUをはじめとする各種装置をミスなく入力することができるか、そして将来的にキャプテンになれる人材かどうかなどを見ています。求めるものが違うんですね。(そうは言ってもFAAでインストラクターをしてATPLを持っているとなればまた別です)

どこの国でもパイロット不足です。来たるべきチャンスに備えて、今の訓練から大切に取り組んでみて下さい!諦めなければ夢はきっと叶います!